『金利が上がったら、通常、債券価格はどうなるでしょうか?』
こちらは日本銀行(金融広報中央委員会)が2019年に行なった金融リテラシーに関する調査の中の質問の一つです。
債券に関するこの質問の正解率はなんと24%。株式や他の金融知識に関する質問よりも債券に関する質問は正解率が非常に低い結果が出ています。
預金や株式などと比べても、債券の金利や価格というのはニュースでも大きく報じられませんし、意識することは少ないかもしれません。
しかし、私たちの生活と債券(特に国債)は密接に関わっています。
本日は債券を理解する上で重要な、
『利率と利回りの違い』『債券価格と金利の関係』について、
そして『債券利回りが変化する代表的な原因』についてお伝えしていきます。
Contents
そもそも債券とはどういうものか
債券を一言で表すと、誰かがお金を調達する際に発行される『借用証書』です。
政府や企業が自らの活動のために新たな資金を必要とするとき、債券を発行して資金を集めます。
債券は以下の3つの要素で構成されています。
■発行体…お金を借りている側
■クーポン…『利子』のこと。お金を借りている側が、貸している側に対して定期的に支払うお金のこと。
■償還期限…『返済日』のこと
例えば、過去に実際に発行された『10年国債(341回際)』を例にするとこのようになります。
債券のルール『貸すお金と返してもらうお金は、必ずしもイコールではない』
債券には二つの金額があります。
それは『借りてる側が返すお金』と『貸す側が支払うお金』です。
ただの借金なら、(利子や利息を含まなければ)借りるお金と返すお金はイコールになるはずです。しかし債券においてはこの2つのお金は必ずしもイコールとはならないんです。
まず、借りている側が返すお金のことを『額面金額』といいいます。
債券が償還期限を迎えた時に、貸している側が受け取れる金額を指します。
(額面金額は債券を発行・売買・償還する際の取引単位でもある等、他にも説明は必要ですが、ここでは割愛いたします)
そして、貸す側が支払うお金というのは債券の購入する際の『購入金額』です。
債券には額面金額と購入金額があり、この2つはイコールではない。
『払うお金と戻ってくるお金は必ずしもイコールではない』
このことが、債券の利率と利回りの違いを理解する上でとても重要になります。
債券の『利率』と『利回り』の違い
『利率』は、商品に対して設定されている金利(%)を指し、
『利回り』は、実際のリターンの割合(%)を意味します。
定められた利率に対して、なぜ利回りは変化するのか?
それは先ほど説明したように債券の額面金額(戻ってくるお金)と購入金額が異なるからです。
ここでは『10年モノ国債:額面1万円:利率年2%』という債券に対して、
A)額面金額と同じ金額で購入した場合
B)額面金額よりも低い金額で購入した場合
C)額面金額よりも高い金額で購入した場合
それぞれ利回りがどう変化するのかをご説明します。
額面金額と同じ金額で購入した場合、利率と利回りが同じ%になるのは当たり前ですね。
それでは額面金額に対して、低い金額で購入する場合、高い金額で購入する場合では、利回りがどのようになるか確認してみましょう。
このように、購入金額によって債券の利回りが変化するということです。
『低い価格で購入できるほど利回りが上がる』というのは債券にせよ、株式にせよ、どの資産にも共通のことですね。
『金利が上がったら、債券価格はどうなるか?』
債券の基本が掴めてきたところで冒頭の質問に戻りましょう。
『金利が上がったら、債券価格はどうなるか?』
この質問をより丁寧な質問にすると以下のようになります。
『新発債券の設定金利が上がったら、市中債券の価格はどうなるか?』
ややこしく感じるかもしれないのですが、要素を分解していけばシンプルです。
まず、国債における新発債券というのは政府が新規に発行する債券で、市中債券とは既に発行されて金融機関の間などで流通している債券です。
新車と中古車のような関係で捉えていただいて大丈夫です。
それでは一連の流れを確認していきましょう。
【①新発国債の設定金利が上がる】
すると、金融機関(機関投資家)にとっては、手持ちの債券より利率が高い新発債券の方が魅力的に感じるようになり、その結果として
【②市中債券を売却して新発債券を買おうという流れになる】
【③市中債券がたくさん売却され、市中債券の価格が下がる】
このようにして『金利の上昇→債券価格は下がる』という一連の流れになっていきます。
そして債券の価格が下がったということは、その購入金額も下がるということになります。
そして『購入金額が低い → 利回りが上がる』という、先ほど説明した価格と利回りの関係により、
【④債券の利回りの上昇】ということに繋がっていきます。
国債の利回りが上がるには様々な理由がある
ここまで解説してきた『市中債券の利回り』というのが、日々のニュースで流れるような『10年国債利回り』として伝えられていることになります。
例えば『10年国債の利回りが下がっています』というニュースは、10年国債の価格が上がっている、つまり国債が多く買われているという状況を表しています。
国債が買われる理由として有名なのは『日銀の大量購入』がありますが、それだけではありません。
『株式市場に対するリスクオフ』
『”外貨安・円高” 状況下での円の買い増し』
なども主要な理由として挙げられます。後者に関しては外国人投資家の割合が大きいです。
日々のニュースで「10年国債の利回りが上がった / 下がった』などの動きがあった際は、これらのどれかから影響されているというに感じ取ることができます。
『10年物国債の利回り』が重要視される理由
さて、ここまで債券の利回りの仕組みを説明してきましたが
なぜ10年物国債の利回りが重要かと言うと、10年国債の利回りが所謂『長期金利』の基準となり、多くの個人、企業にとって重要に関わってくるからです。
長期金利とは、資金を1年以上借りる際に用いられる貸付利率のことです。
具体的には
『企業や個人事業主が融資を受ける際の金利』
『個人の住宅ローンの固定金利』
などに影響を与えるわけです。
そのため、数多くの国債の中でも10年国債の利回りが注目されるわけなんですね。
まとめ
- 債券には、定まった利率と、償還期限が設定されている
- 債券は払うお金(購入金額)と受け取るお金(額面金額)が必ずしもイコールではない
- 利率は設定されている金利(%)を指し、利回りは実際のリターン(%)を意味する
- 利率は定まっていても、購入金額の違いによって利回りへ変化する
- 購入金額が低ければ、利回りは上昇する
- 債券には新発債券と市中債券(既発債券)がある
- 新発債券の設定金利が上がると、市中債券の価格は下がる
- 市中債券の購入価格が下がるので、利回りは上昇する
- 日々のニュースなどで報じられる債券の利回りは、主に10年国債の利回り
- 10年国債の利回りが長期金利の基準となる
- 長期金利は企業や個人情報主の融資金利や住宅ローンに影響を与える
- つまり長期金利は経済活動に大きな影響を与える
- だから10年国債の利回りは、重要な経済指標として報道される
今回は債券の基礎として、金利と利回りの関係、価格と利回りの関係について解説しました。
債券の利回り、主に10年国債の利回りは住宅ローンの金利などに影響を与えるので私たちの生活に密接に関わってきます。
また、債券の利率や利回りは株式など他の金融資産に対しても当然ながら強く影響を与えます。
『債券の金利と株式の関係』などについては、次回以降で改めて取り上げたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!