最近話題の書籍「安いニッポン」(中藤玲 著)
物価・所得・景気など様々な分野において日本が世界の中で取り残されていることを赤裸々に解き明かしていると、とても話題になっています。
中田敦彦さんのyoutubeチャンネルでも、この本についての解説動画が公開されていますね。
今回の記事では、物価や所得だけでなく日本円という通貨自体の価値も低くなっていることについて、通貨の実質的価値と購買力という面から解説していきたいと思います。
Contents
通貨の交換価値、為替レートの基本
大前提として、お金(通貨)の価値というのは一定ではなく常に変動します。
代表的な変動要因の一つとして為替の影響があります。
為替というのは「1ドル〜円」のようなやつですね。
通貨を別の通貨に交換することを為替といい、2つの通貨間での交換比率のことを為替レートといいます。
例えば、ある時点での日本円とUSドルの為替レートが「1ドル=110円」だった場合、110円出せば1ドルと交換できるということですね。
為替レートは短い期間でも大きく変動する
為替レートは固定相場制と変動相場制がありますが、日本円とアメリカドルなど、先進国の通貨間においては変動相場制がベースとなっています。
2011年の10月頃は「1ドル=約75円」でしたし、その5年後の2016年は「1ドル=約123円」でした。
この5年間では約40%の円安に動いたことになります。
また2020年12月は「1ドル=約103円」でしたが2021年3月は「1ドル=約110円」。
わずか3ヶ月ほどで約7%も円安になりました。
このように通貨の価値というのは短い期間でも大きく変動します。
為替レートの変動は私たちの生活にも当然影響を及ぼします。
私たちの生活にかかせない資源である石油や原油も基本的にはドルで取引がされますので、為替の影響を受けないものを探すことの方が困難であるかもしれません。
為替レートは2種類に分けられる
このように為替レートは私たちの生活に関わってきます。
しかし、私たちが普段目にする為替レートは円の実質的な価値を表しきれていません。
実は為替レートには大きく2種類が存在します。
それが「名目為替レート」、「実質為替レート」になります。
それぞれの違いを端的に表現すると以下のようになります。
先程から登場してきている「1ドル〜円」のような、普段私たちが目にするものが名目為替レート。これは2つの通貨間の交換比率を表しています。
一方、実質為替レートは”通貨自体の実力を測る指標”になります。
丁寧に表現すると、”その国の物価上昇率や貿易額などを加味した通貨価値”ということになります。
通貨の交換比率ではないため「1ドル〜円」のようにはならず、何ポイントとして表現されます。
具体例で考える、実質為替レートの意味
実質為替レートをもって通貨価値を捉えなければいけない。このことを具体例をもって解説していきます。
例えば、以下のように感じた経験はないでしょうか?
「円高で安く海外旅行楽しめると思ったけど、現地での食事や買い物は思ったより高く感じた……」
これは円の本質的な価値が下がっていることをよく表しています。
このことを数値としても表しているのが実質為替レートになります。
実質為替レートで捉えると、円の価値は下がり続けている
こちらは1990年から2020年の30年間での、日本円の実質為替レートの推移です。
実質為替レートのピークは1995年になりますが、そこから2020年にかけて、実質為替レートは約42%も下がっています。
つまり、円の価値自体がピーク時から半分近くまで下がっているとも言えます。
ここに名目為替レートを並べてみると以下のようになります。
名目為替レートは大きく下がっても、その後は反転して上昇します。
名目為替レートの短期的かつ大きな変動は各国の貿易/経済にとって都合が悪いため、各国中央銀行による為替介入などが行われます。
そういったこともあり、名目為替レートは基本的には同じ幅内を繰り返すことが多くなります。
しかし名目為替レートと異なり、実質為替レートは下がり続けています。
なぜこのような違いが生まれるか?
それは前述のとおり、実質為替レートはその国の物価上昇率を加味したものだからになります。
日本とアメリカの物価上昇率の違い
先程のグラフの時期は1990年〜2020年でした。
この30年間での日米の物価指数および物価上昇率を比較すると以下のようになります。
同じ30年間でアメリカは物価が約2倍(+100%)に上昇したのに対し、日本は約1.1倍(+10%)になります。
つまり、時間をかけてアメリカや他の国の物価は上昇していました。
ということは、物価上がった国に行って、買い物や食事が高く感じるのは当たり前ということになります。
日本円が弱くなった具体例の正体
1990年〜2020年の30年間の変化を、名目為替レートと物価上昇率を両方加味して考えてみましょう。
・1990年の名目為替レートは「1ドル=145.50円」
・2020年の名目為替レートは「1ドル=103.50円」
・28.8%の円高ということになります。
しかし、この30年間でアメリカの物価指数は約2倍(+100)になっていました。
ということは、物価が+100%上がっている国に行っているので
名目為替レートが28%円高でお得でも、実質的にはさほどお得ではないということになります。
上記のようになるのは、実質為替レートで捉えれば当たり前の状況です。
それは日本円の実質的な価値が42%もダウンしていたからです。
このように、通貨の本質的な価値というのを理解することがとても大切になります。
実質的な通貨価値を理解する必要性
これまで日本円の実質的な価値が下がっていることを述べてきましたが、
『なぜ実質的な通貨価値を理解する必要があるか?』についても考えていきたいと思います。
それは通貨の”購買力”と密接に関係するからになります。
購買力とは、その国の通貨で獲得できる商品やサービスを数値化したものです。通貨の購買力が高いほど商品やサービスが安く手に入るということです。
そして、残念ながら日本円はこの購買力が時間をかけて下がっています。
通貨の購買力を測る指標のひとつ、ビッグマック指数
各国の通貨の購買力を比較する上で参考になる指標の一つに「ビッグマック指数」というものがあります。
こちらは、英国の経済専門誌「エコノミスト」が毎年2回発表しているもので、全世界のマクドナルドで販売されているビックマック1個あたりの価格を比較することで、各国の経済力や為替レートの妥当値(適正為替レート)を判断したり、各国の通貨の購買力を比較するために用いられる指標です。
(ビックマック指数の話をするには「購買力平価説」という経済理論がベースにあり、その話も非常に大切なのですが今回は話が脱線しそうなので割愛いたします。丁寧に把握されたい方はぜひ調べてみてください)
そして、ビッグマック指数は、その指数の高い国の通貨ほど購買力が高いという側面も表しています。
ビッグマック指数の導き方は以下になります。
ビッグマック指数からみえる、日本円の購買力の低下
ビッグマック指数はランキング形式で公開されており、2021年現在、日本は25位に位置しています。
ちなみに2000年は5位でした。
ビッグマック指数においても、日本円の購買力は大きく他の国の通貨と比較して下がっていることになります。
こちらの動画は2000年から2020年までのビッグマック指数のランキングの推移を表したものになります。日本の位置づけが時間と共に下がっていくのが確認できます。
購買力の強い通貨を持つことの重要性
このように円という通貨は実質為替レートとして捉えても、ビッグマック指数として捉えても実質的価値及び購買力が下がっていることが分かります。
これまで読んでくださった方の中には
「外貨を使う機会も殆どない。円しか使わないから関係ない」
という意見の方もいるかもしれません。
しかしながら関係ないでは済まされない。購買力の弱い通貨しか持たないことは損をするということを学ぶ必要があります。
その理由は以下になります。
【IT技術の発展に伴う決済手段の多様化】
【為替手数料の低下】
異なる通貨を交換する際には為替手数料が発生します。
しかしこの為替手数料は情報技術の進歩に伴って年々小さくなってきています。
例えば、外貨サービスに強い銀行で有名なソニー銀行の場合、1ドルあたりの為替手数料は4銭(0.04円)のみです(優遇プログラム:プラチナステージの場合)
1ドル=100円の為替レートで考えた場合、為替手数料は0.04%ということになります。
今後、為替手数料がさらにゼロに近づいていった場合どうなるでしょうか?
日本円しか使わない生活だったとしても、購買力の強い通貨を持っていれば、その通貨を円に変えるだけで支払い金額は少なくすることができるということです。
本日は円の価値が弱くなっていることを軸に、強い通貨を持つことの意味について書かせていただきました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。